Where there is a Will, there is a Way. (意志あるところ道あり。)
これはクリエイティブ司書・小宮山剛の母校、東福岡高校高等学校でも校訓に使われている金言です。有名ですよね。
今回はこれになぞらえて、椎葉村図書館「ぶん文Bun」の選書に込められた「意志」の一端をご紹介したいと思います。
「選書」というのは、図書館の命とも言える作業です。これを疎かにするとその図書館の独自性が失われ、公共性を保ちながらも地域色を表現するという図書館がもつ美しい役割を損ねてしまうことになります。どのような本を選び、それを実地でどのように連鎖させるか(すなわちディスプレイするか)、ということが図書館を活かす大動脈と言ってよいでしょう。
ぶん文Bunを立ち上げるにあたっては、開館直前の数カ月で約15,000冊の選書を行いました。もちろん図書館業者さんに丸投げなんてあるまじき行為はとらず、1冊あるいは1シリーズごとに、丁寧な丁寧な選書を行いました。時には神保町へ駆け込み良書を安価で買い付けたり、オーソドキシカルな装丁の本を知るデザイナーの方にプロの選書をご依頼したりもしました。
「図書館と地域をむすぶ協議会」の太田剛チーフディレクターと、ご来村されている間中毎晩毎晩パソコンの字が変形して見えてくるようになるまで選書を続けたことが思い出されます(笑)
・・・さて、なぜ私が「クリエイティブ司書」として、選書にこだわるのか? (もちろん、図書館で選書をする方々なら皆さんその重要性を疑うことがないでしょうが)
それは「私の選書は地域がもつ意志の代弁である」という自覚があるからです。椎葉村の公共図書館であるぶん文Bunに収められる本は、あらゆる意味で「地域が求めた」本であると言えます。その点において私は、地域が希求するジャンルや書籍を代弁する立場として選書を行っているのです。この覚悟なくして、図書館の選書を担うことはできません。
一方で「現在既にある地域の声」だけを選書に反映するのでは、司書がいる意味がありません。それはクリエイティブと言える仕事ではなく、何ならAI・・・というかただリクエストを発注処理に変換する単純な機械があればできることでしょう。図書館司書なんて要らないのです。
私が行う選書は「地域がもつ意志の代弁」であると同時に「地域の未来を照らす」ことが必要なのです。そう思っています。つまり私が基準にしているのは、10年後の椎葉が「良き」方向に変わっている姿を想像させるような選書ということです。 (※「良き」とは、ある一つの可能性として・・・ということです。現時点でも椎葉村は最強最高の秘境だと思っています。だからこそ住んでいるわけですし)
そこには、椎葉の地域性を伺ったうえで熟慮される「司書の意志」が介在します。未来の地域はこうあるべきではないか、こうなってほしい、こうなるといいな、こうなるかもしれないな・・・。そんな意志を選書に反映し、意志を表現する手段として特集棚を組んだり、ディスプレイをしたりするのです。
今回は、クリエイティブ司書が描く「10年後の椎葉がこうなっているといいな」という表現をした本棚の一例をご紹介します。それは、私が椎葉に来て1年ちょっとのあいだに抱いた「ココが加われば椎葉村はもっと最強になるな」(語彙力)と思うものを、本棚というかたちで表現した棚です。
この棚をつくるとき、あるいはぶん文Bunを立ち上げるための選書をしているときに気づいたのですが、何らかの意志を本で表現しようと考える時、探してみれば必ずその意志を表現するための本がみつかります。
まさに「意志あるところ本あり」なのです。
↑これは、ぶん文Bunにある「環」の棚です。食文化とそれをめぐるいのちの環を表現し、農業からグルメレシピまでを集めた本たち・・・。その正面に広々と設置されているのが「酒」コーナーです。
ワイン、ウィスキー、クラフトビールの図鑑
ワイン通になるための本をご用意。
日本酒は入門から歴史まで学べるように。さらに日本酒のとなりには「発酵」と「和食」の本をディスプレイし、飲から食へのつながりを演出。
ウィスキーはお洒落だと知ってもらい。
クラフトビール人気を垣間見る!
アブサンや密造酒でさらにディープな世界へ・・・?
クリエイティブ司書イチオシのお酒漫画たち。『まどろみバーメイド』も新しく買いました。
・・・どうでしょうか?「ただの酒好きの浪費じゃないか!」でしょうか?
まぁひとつ、なぜここまで酒の本を購入したのかをお聞きください。「ウケそうだ」という理由だけではないのです。
椎葉で飲み会(宮崎全般で「飲みかた」と言う)をするとき、方法は2種類と言ってよいです。それは、お店や民宿を予約するか、あるいは缶や瓶に入った酒類を持ち寄り自宅や集会所で宴をひらくか。
つまり「帰り道でふらっとお気に入りの店に行き語らう」という文化が無いのです。
そうするとどうなるか。楽しむことができる酒の種類が減り、自然と生ビール(があればいい方)か、発泡酒か、瓶や紙パックで手軽に購入できる焼酎か・・・という選択肢になってきます。
これは、みんなで酒を持ち寄り楽しむ分には良いことです。現状、とても楽しいです。私もよく飲み会で盛大にパッパラパーになっています(ほんと、すみません)。さらに言えば、これこそ村の飲みかたの本当の良さとも言えます。缶ビールでいいから持ち寄って語らえる人々の集まりほど、良いものはないですよね。
ただし思うに、酒の楽しみ方はより奥深きものなのです。そしてまた、その奥深き酒の楽しみ方にこそ新しい文化が付随し、ビジネスの可能性が開けてくるものです。優れた作家が優れた酒の文章を書き(村上春樹さんしかり、椎名誠さんしかり)、優れた画家のそばには愛すべき酒があり(ピカソとシャルトリューズ)、そしてビジネス界の成功者たちはこぞってオールド・ウィスキーやワインに傾倒する。そこには深い酒の世界を正しく楽しむ者だけに許された、特別な対話と交感の世界が広がっているのです。
私だってそんなに偉そうなことを言えたクチではありませんが(よく酔っぱらうし・・・ほんと、すみません)、酒文化の向上は地域文化の向上と二人三脚だと思うのです。だからこそ、椎葉の人々にのどごしや淡麗や木挽や宝星を超え出る酒を知ってもらいたかった。10年後の椎葉には、麗しいクラフトビールショップやオーセンティックなバーができていて、そこに仕事終わりの人がちょっと立ち寄るような情景が完成されていてほしかった・・・。
そこにはきっと、新たな語らいや縁が生まれていることでしょう。そんな縁を生む端緒として、こんな「酒棚」をつくってみたというわけです。
日本三大秘境と言われる椎葉村に、多量のタップがあるクラフトビールショップがあったら素敵だと思いませんか?バキバキにオーセンティックなバーがあったらどぎつくカッコイイと思いませんか?
この自治体が今後も豊かに永続していくにあたって、こうした飲酒文化環境から生まれる新しい文化、新しい人種の集いは欠かせないと思うのです。外からも内からもアイディアがもちよられ、語らいが起きる場所・・・。そんな場所が、10年後には生まれてくれるといいと思うのです。
できればその時、ぶん文Bunの「環」に酒棚があったことを思い出してもらえれば・・・。
「10年後」という言葉を用いましたが、実はもうそんな「文化的飲酒」の動きが椎葉で始まっているのです!
これは、椎葉村で地域おこし協力隊が企画開催している「コトヨリ」。「飲み会っていいこと思いつくけど忘れちゃうよね!」という残念な反省からコトが起こり「だったら飲み会と会議を一緒にやっちゃおうよ」というアイディアが生まれました。
コロナウィルスの感染流行後は開催が控えられていますが、それまではおよそ月1回程度のペースで、酒をもちよりご飯を傍らに置いて、様々な議題が持ち上げられてきました。椎葉の観光、養豚、集会の在り方、若者の未来・・・。私小宮山も、↑にかかげる「『あたらしい図書館』はおもしろい?」にて登壇させていただきました。
「登壇」とは言ったものの、ゲストスピーカーとしての役割を果たすだけ。コトヨリはあくまで「コトを持ち寄る場」。みんなで酒を片手に、輪になって語らう場所なのです。まさに飲食がつなぐ「環」ですね。
さらには、椎葉村の「ひえつきの里キャンプ場」にあるCAFE Co-smに、最近クラフトビールサーバー(タップマルシェ)が導入されたのです!すごい!もう10年後がきている!
このCAFE Co-smでは「山小屋シネマ」と題した映画上映会も頻繁に催されており、キャンプ場のコテージにあるスクリーンを囲いながら語らう会はとても文化的です。椎葉という環境だからこそセレクトが活きる映画があり、椎葉という環境だからこそクラフトビールも旨い。暖炉で温まりながらの映画観賞は、きっとその他の土地と異なるものでしょう。
控えめに言って最強におすすめです。ひえつきの里キャンプ場にはマイクロライブラリー的本棚も置いてあり、山やキャンプやブッシュクラフトに関する書籍が賑わっています。これもひとつの「意志ある選書」で選りすぐられた本たちですね。
椎葉村図書館「ぶん文Bun」が立ち上がってすぐ催された読書会も、実はワイン片手の文化的飲酒を伴うものでした。ぶん文Bunのくつろぎスペースで開催されたこの読書会では、それぞれが好きな本をもちより好きな感想を言い合いながら、同じワインに舌鼓をうったのでした。
もしかしてもう、椎葉村の「文化的飲酒」は始まっている?
そうでした。最後に「酒棚」ではないところにあるクリエイティブ司書の「意志ある選書」をひとつ。ここはぶん文Bunの「滝」という分類で、いわゆる雑誌コーナーです。
狩猟や釣りから菜園、あるいは文芸誌・・・となかなかトンガリな選書が施されたこのコーナーで『月刊むし』と共に異彩を放っているのが『月刊たる』。これいいよ。最強ですよ。
とくにこの「愉楽のウィスキー」特集なんかは、オーセンティックなバーへウィスキーを飲みに行く前におさえておきたいポイントがてんこもりでした。
そんなわけで、キーワードは「はじめよう 文化的飲酒」。
ぶん文Bunの酒棚を是非ご覧くださいね。日本三大秘境の一つ椎葉村で、お待ち申し上げます。
クリエイティブ司書・小宮山剛