「ぶん文Bunレビューキャンペーン」に新たな感想をお寄せいただきました!
ぶん文Bunネーム「円」さんから、今回は奈須きのこさんについての熱いレビューをいただきました。いつもありがとうございます!
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今回お読みいただいたのは奈須きのこさんの長編伝奇小説『空の境界』。読み方は「空(から)の境界」で、レビューにも登場する劇場版は「空(くう)の境界」と読むそうです。
『空の境界式』の題名で奈須きのこと武内崇(イラスト担当)の同人サークル「竹箒」のホームページ上に掲載されたのが初出というこの作品。円さんはどのように読み解いてくださったのでしょうか・・・。
『空の境界』(奈須きのこ)
舞台は世紀末の日本。魔法使いや魔術師が現代に存在する世界観。 二つの人格をもつ少女・両儀式(りょうぎ しき)が様々な異能力者と戦いつつ、黒桐幹也(こくとう みきや)という普通の青年との交流を通して変化していく様を描きます。
「直死の魔眼」とか「根源の渦」とか、どこか中二病心をくすぐられるワードが散りばめられているのですが、ライトノベルとしても伝奇文学作品としても楽しむことができる稀有な小説です。劇場版は一通り観ているのですが、20周年記念版のオシャレな装丁の単行本が並んでいたので、これを機にと原作を読んでみた次第です。
この作品に登場するアイス「ハーゲンダッツ・ストロベリー」もきちんと描かれていました。(ハーゲンダッツ・ストロベリー好きとしてはなんか嬉しい) ただ、劇場版でアイスの表面を太極図(陰陽マーク)っぽく描いたシーンはさすがに文章としては載っていませんでした。
太極図といえば、名が体を表しているのがこの作品のヒロインである両儀式です。彼女は男性性である“識”と女性性の“式”という二つの人格をもち、容姿はというと男が見れば美少女に、女が見れば美少年にといった中性的な面立ちをしています。正に陰陽併せ持つキャラクター。
少しネタバレになってしまいますが、作中、男性性である“識”の人格は事故に遭った後消え去ります。その後、識が消えたことを知った式は、口調をわざと男っぽくしたりします。 太極は森羅万象の根源の他にも、不完全な部分を補うためとでもいうように、陰中の陽、陽中の陰という考えがあります。分かりやすく言えば男性の中にある女性的な面、女性の中にある男性的な面ということです。そうした口調で話す式は、それを体現しようとしているかのごとく感じました。
彼女自身は消えた識の人格を忘れないためという供養の気持ちが強かったのかもしれませんが。 (根源と両儀式の肉体を繋ぐ第三の人格があることもほのめかされるのですが、それはもう人智を超越した世界の人格なのでしょう……。)
哲学的で難解な会話が多いので、正直読むのに疲れましたが、濃密な読書時間を過ごすことができる作品でした。
円さん、今回もありがとうございます。ハーゲンダッツ・ストロベリーがお好きということを知ると、すこし嬉しくなりました(笑)ちなみに小宮山は・・・、迷いますが抹茶が好きです!(なんのこっちゃ)
さてレビューの内容ですが、円さんも書かれているとおりラノベの中でも骨太な作品は多くありますよね。ぶん文Bunでも、小説やライトノベルというジャンルにとらわれることなく「いいものはいい」という精神で選書を行っています。
両儀式の男性性と女性性の説明にもあるような「大きな構造」(ここでは太極図)は、時として物語の骨子にもなり、またストーリー全体に格調をもたらしてくれます。ラノベもそうですが、アニメの世界でも古今東西問わず言い伝えられるような深みある構造がうまく使われていて、そういうものを読んだり観たりすると私たちは「かっこいい」と思うのではないかと思います。
たとえば先に大ヒットした『君の名は。」は、単なる青春ドラマではないから日本中で人気を博したわけです。そのエッセンスはやはり、宿命的輪廻の運命論がもつロマンと、巫女の口噛み酒や「糸守」といった古来のデバイスを引き合いに出しながら語られる呪術的アニミズムなど、どこか憧憬や不思議な懐かしさを駆り立てられる記憶の物語にあるのでしょう。「セカイ系」という一言では片づけられない含蓄と美しさが、ラノベやアニメの優れた作品に発見されると思うものです。
ぜひとも「ラノベだから」とか「アニメだから」とかいう先入観なく、おもしろいものをおもしろく受け容れる精神でどんどん読み解いていきたいものですね!
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このところぶん文Bunへの視察がどっと押し寄せていてレビューの更新が遅れておりますが、すべてしっかりと読ませていただいています!また最近は新しい方からのレビューも増えているので、より一層更新がんばります(笑)
そして円さんは、これが4冊目のレビューです。次に5冊目のレビューを書かれた際はぜひ、ぶん文Bunのカウンターでコハチローオリジナルキーホルダーをお受け取りくださいね!コハチローの首にかけられているのとは別に、ちゃんと袋入りでご準備しております!
※※↓その他のレビューもご覧ください↓※※
・ぶん文Bunネーム「ぽよ」さん — 『日本語のために』(池澤夏樹編)
・ぶん文Bunネーム「ななろくに」さん — 『むらさきのスカートの女』(今村夏子)
・ぶん文Bunネーム「ななろくに」さん — 『竜馬がゆく』(司馬遼太郎)
・ぶん文Bunネーム「円」さん — 『歎異抄[まんが学術文庫]』(唯円)
・ぶん文Bunネーム「ろなさん」さん — 『記憶喪失になったぼくが見た世界』(坪倉優介)
・ぶん文Bunネーム「円」さん — 『白い牙』(ジャック・ロンドン)
・ぶん文Bunネーム「ななろくに」さん — 『痴人の愛』(谷崎潤一郎)
・ぶん文Bunネーム「円」さん — 『読書の価値』(森博嗣)
(クリエイティブ司書・小宮山剛)