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今回お手にとっていただいたのはハヤカワepi文庫さんから出ている新訳版(高橋和久訳)です。クリエィティブ司書の小宮山が慶應の英米文学専攻に在籍していた頃、当時は東大に所属されていた(「はず」。現在は東大名誉教授でいらっしゃいます。)高橋先生が慶應でも授業を受けもたれていたことを思い出します。ディケンズの『荒涼館』(Bleak House)という冗長さがウリのような長大小説の授業だったのですが、高橋先生のゆったりとした語り節のおかげでただでさえクソ長い『荒涼館』がもっともっと長く感じられたと記憶しています(笑)

さてさて前語りは良いとして・・・さっそくレビューを読ませていただきましょう!

 

『一九八四年』(ジョージ・オーウェル)

 

言わずと知れた世界的名作。一党独裁政治の管理社会を描いた、狂気のディストピア小説。 半世紀以上前に書かれたことにびっくりです。

 

『PSYCHO-PASS サイコパス』というアニメ作品があるのですが、小説版では冒頭に“<思考犯罪>は死を伴わない。<思考犯罪>が即ち死なのだ。”という『一九八四年』内の一文が掲げられており、相当インスパイアされたんだろうと思います。アニメ内のシーンではキャラ自体が『一九八四年』を読んでいたり、ジョージ・オーウェルの作品について語ったりします。 というか、本作の影響を受けていると言われる作品は星の数ほどあり、そりゃもう否が応でも小説に対する期待は高まっていたわけです。

 

読まない状態のまま「一九八四年」の株が自分の中で上昇し続けていたような感じです。 で、導入として一緒にお借りした漫画版を先に読んだのですが、思わず「そういうバッドエンドかーい」と本を放り投げそうになった次第です。(バッドエンドでも好きな作品は多々あるのでバッドエンドそのものが嫌いなわけではないです。)

 

渋々と小説を読んでみるも、やはり主人公に全く魅力を感じることがないまま、何とも後味が悪いとしかいいようがないラストでした。 じゃあなぜあえてこの作品のレヴューを書こうと思ったかというと、嫌な作品だと感じる一方で、現代社会との様々な一致からくる興味深さが湧いたからです。作家や漫画家はイマジネーションを広げることで、得てして奇妙なほど未来を予知したかのような作品を仕上げることがありますが、本書には正にそれを感じたのです。

 

例えば、“印刷技術の発達によって世論の操作が容易になり、映画やラジオは、それを更に推し進めた。テレビが開発され、技術の進歩によって、ひとつの機器で受信と発信が同時にできるようになると、私的な生活といったものは終わりを告げることになった。”という一文が出てくるのですが、現代はまさにそういった状況下にあります。 個人のプライバシーは守られていると思われる方も多いかもしれませんが、基本的にネットなどは個人がどういった情報を検索・収集しているかは調べようと思えば調べることができるシステムです。

 

メディアも真実しか流さないと思ったら大間違いで、もしかすると、メディアを通し個人が常識として抱いているあらゆることは幻想である可能性すら高いわけです。知識も考えも欲望も、“何者か”によって形作られているとしたら……。 加えて、コロナ禍において各国は意図せずして監視社会・全体主義を構成しやすくなったのではないでしょうか。

 

というのも、ㇵッ……<ビッグ・ブラザー>に見られているような気がするので思想的な記述はこの辺でやめときます。(*101号室だけは嫌だ……。)
*101号室・・・・・・終盤、主人公のウィンストンが拷問のために送られる部屋。

 

 

ほんとうに、オーウェルの『一九八四年』がもたらす文学的・芸術的影響は計り知れません。円さんがおっしゃる『PSYCHO-PASS』にて槙島聖護たちが語らう場面は、イチ海外文学ファンとして興奮しながら観ていたことが思い出されます。サイバーパンク・アメリカの旗手ウィリアム・ギブスンに『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』(映画『ブレード・ランナー』の原作)を著したフィリップ・K・ディック、そしてオーウェルの名前が一挙にあげられたシーンでした。

他にも村上春樹の『1Q84』しかり、このディストピア小説にオマージュを捧げたり、同作から何らかの影響を受けていることを(明示的にあるいは暗示的に)表明・示唆する作品は多くありますね。

そして「現代社会との様々な一致」と円さんのレビューにありますが、実は椎葉村のなかで『一九八四年』の情景ととても似通った「設備」があるのです。・・・ザワザワ・・・

・・・それは「告知端末」と呼ばれる、椎葉村民にとって大切な情報共有端末であり、テレビや光インターネットの接続端末にもなっている機械です。(椎葉村が光ファイバー敷設率100%なのは、ほかならぬこの告知端末が全戸に配置されているからです)

そう・・・。これは村民の暮らしを管理するための恐ろしいディストピア的な・・・ではなく、毎日の道路工事情報(通行止情報)や定期健診の日時、そのほか牛の競売や椎茸の出荷価格など、村民にとって欠かすことができない情報を流してくれる設備なのです。ときには海外へ修学旅行にいった中学生たちの現地からの声が聴けたり、民話や民謡が流れたりもしています。

告知は毎朝6:30とお昼の12:30、そして夜間は19:30に流れます。そして朝の6:45には運動の時間として「ラジオ体操」が・・・。これはとってもオーウェル的ですよね。椎葉の朗らかで清々しい朝にラジオ体操のミュージックが流れるのを聴きながら「『一九八四年』のディストピア世界もこんなに安らかな世界なのだろうか」と思案したものです(笑)

一応申し上げておくと、椎葉村の告知端末は一切オーウェル的ディストピア的なシロモノではないですし、情報搾取もされていません(笑)

 

 

されていない・・・はず・・・です。

 

 

(‘ω’){オット、ダレカキタヨウダ

 

 

・・・・・・・

※※↓その他のレビューもご覧ください↓※※

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※椎葉村図書館「ぶん文Bun」に置いてある本はこちらのページにて検索できます。

 

 (クリエイティブ司書・小宮山剛)

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